著作物ではない有償の情報を無断でデータベースに組み込んだ行為が不法行為でないとされた事例ー東京地裁平27.2.13(平24ワ24738)

 投稿日時
2016/07/08 17:11:13
 最終更新日時
2016/07/08 17:11:13

有償のデータベースのコピーについて争われた事案

判例時報2292号を見ていたところ、データベースに関する判例を見つけました。有償のデータベースを(意図的ではなく、部分的にしろ)コピーして別のデータベースを作成した行為について、不法行為ではないとされた事例です。クローラでの情報収集など、ネット社会ではありそうな事例かと思います。

後で詳しく触れますが、データベースは著作物として保護されません。それでも侵害された行為を不法行為として認めたものに、判例時報にも載っていますが東京地裁判決平成13年5月25日があります。この判決では、著作物でなくても不法行為が認められる場合として、「…そのデータベースを製造販売することで営業活動を行っている場合において、そのデータベースのデータを複製して作成したデータベースを、その者の販売地域と競合する地域において販売する行為は、公正かつ自由な競争原理によって成り立つ取引社会において、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害するものとして、不法行為を構成する場合があるというべきである。…」とされましたが、本事案ではこの部分が当てはまらないと判断されました。

本事案の登場人物

原告医療関係のコンサルタント、ソフトウェア作成を行う株式会社。
被告ウェブサイトの作成、保守を行う株式会社。

本事案の経緯

H3原告設立。医療機関情報に関するデータベースを作成し、顧客に提供する業務を行った。顧客は自身の運営するウェブサイトにそのデータベースの情報を載せることができる(提供契約では顧客による複製及び翻案が禁じられている。また顧客のウェブサイト上では利用規約により商業目的での利用等が禁止されている。)。
H22/5ウェブ上での問診システム開発のため、被告が公益財団法人から助成金を得て医療機関情報の取得作業を開始。 被告の従業員がウェブサイトを指定すればデータを取得しデータベース化するクローラーを作成。下記の順番で情報の収集を開始した。なおクローラーは、重複する情報があった場合、後から取得した情報を上書きする仕様だった。
  • 厚生労働省所管の、医療機能情報提供制度に基づいて各道府県が提供するウェブサイト
  • 地方公共団体のウェブサイト
  • 民間企業のウェブサイト
クローラーが作成したデータベースを従業員が確認し、誤字脱字の修正や、情報の追加、医療機関への電話での確認を行った。また地方公共団体の提供している情報を元に、救急対応が可能かどうかを区別する項目を加えた。
H22/9/中旬東京都内の情報収集が完了。
H22/9/17被告ウェブサイトの東京版を開設(被告ウェブサイトは、後にある関東版、全国版も含め無料で公開しており、売り上げはない)。
H22/11関東圏内の医療機関情報の収集を完了。
H22/11/30関東版を開設。
H22/12/初旬全国の収集(16万件)を完了。
H22/12/15全国版を開設。
H24/3/09原告が被告に原告データベースの無断複製を指摘する通知書を発送。
H24/03/10被告が受領し、上記の事実を知る。
H24/03/15被告が被告ウェブサイトを閉鎖。

原告と被告のデータベースの違い

黄色の部分は相違がある箇所です。

原告のデータベース

データベースは全国の病院、診療所などの医療機関に関して、以下の情報をまとめたもの。また、独自情報(無断複製発見のための医療機関情報とは無関係なデータ)が含まれている。

  • 正式名称及び略式名称
  • 経営主体
  • 所在地
  • 連絡先
  • 診療時間(午前、午後それぞれ表記)
  • 休診日
  • 診療科目
  • 病床数
  • 最寄り駅

被告のデータベース

原告データベースの独自情報を含んだデータもある。

  • 正式名称及び略式名称
  • 所在地
  • 連絡先
  • 診療時間(午前、午後の区別がない表記)
  • 休診日
  • 診療科目
  • 救急医療機関かどうか

原告データベースと被告データベースを比較した結果

四つの医療機関について、データベースの相違を調べた結果は以下の通り。

住所

文字の全角半角、ハイフンや空欄の表記を含めて同一。ただし、他のデータベースともおおむね一致している。

休診日

住所と同様、表記が同一だが、他のデータベースともおおむね一致している。一カ所については、原告のみに存在する。

診療時間

原告データベースは各曜日について午前午後の時刻を記載しているが、被告データベースは午前午後の区別がない。
また、一部データでは時刻が異なる。

診療科目

お互いにないデータがある。

争点:被告による原告データベースの無断複製の有無及び不法行為該当性

裁判中で争点はもう一つ(損害について)出ていますが、不法行為には該当しないとの結論になったため、その点については裁判所の判断はありません。ここでは省略します。

項目 原告の主張 被告の主張
原告データベースが法的保護に値するか
  • 原告は膨大な労力と費用をかけてデータベースの情報を維持しており、原資料や原データの単なる集合体ではなく、別個の経済的価値を有し、法的保護に値する
  • 顧客も含め、第三者に対してデータベースの複製を許諾していない。
  • 医療機関情報は公開の必要性が高く、各ホームページにおいて無料で公開されている。
  • 被告のデータベースにおけるデータは無料で公開されている情報と同等のもので、原告に独占的に使用する権利を付与することは公益的観点からも認められるべきではない。
  • 原告データベースは法的保護に値するものとはいえないし、仮に法的保護に値する利益が認められるとしても、その要保護性は低い
原告データベースを収集する行為が不法行為となるか
  • 営利目的で原告に無断で情報を収集して組み込んでおり、公正かつ自由な競争原理の範囲内での競争を超え、営業活動上の利益を侵害しており、不法行為責任を負う
  • データベースが著作物として保護されることや、被告の行為が著作権侵害行為に該当する旨は主張しない
  • 医療機関情報について特定の者に排他的な権利を付与することは、それ以外の者が情報を使用する機会を奪い活動を制約することなので、著作権や不正競争防止法等の特別法による保護に値しないものについて、一般規定である民法七〇九条による保護を与えることには慎重でなければならない。
  • 侵害されたとされる利益の性質と侵害行為の態様との相関関係から違法性の有無が判断されるべきである。
  • 殊更に相手方に損害を与えることのみを目的としてされたような特段の事情が存在しない限り、情報収集行為に不法行為としての違法性はない。
原告データベースが被告データベースに組み込まれているかどうか
  • 独自情報を付したデータが全て被告データベースに存在していたこと、全角半角の区別などが一致することから、原告データベースの医療機関情報が組み込まれていることは明らかである。
  • 仮にクローラを使用し他のデータベースから収集していたとしても、医療機関情報が細部まで一致しているのであれば、収集の早い段階で組み込まれたといえる。
  • また、都サービスから情報を収集した後で原告データベースから情報を収集したとしても、情報を上書きしたのであるから、原告データベースを組み込んだといえる。
  • 被告データベースは患者が自宅で問診することを可能とするシステムの構築を目的としたもので、原告データベースと内容は異なる。
  • 公益財団法人から助成金は得たものの、ウェブサイトは無料で公開しており、第三者からの広告掲載料も徴収していない。
  • 被告はクローラを使用して医療情報を収集し、手作業で修正した。原告データベース上の情報を組み込んだ可能性はあるものの、偶然の結果である。
原告に損害を与える目的、違法性についての予測可能性
  • 被告は平成24年3月9日付けの通知書によって原告が有償でデータベースを提供していたことを知ったものであり、原告に損害を与える目的や違法性についての予測可能性は全くなかった。
  • 被告は平成24年3月9日付けの通知書によって原告が有償でデータベースを提供していたことを知ったものであり、原告に損害を与える目的や違法性についての予測可能性は全くなかった。

裁判所の判断

項目 裁判所の判断
無断複製の有無
  • 原告は、被告データベースと原告データベースが細部にわたり一致していることから、早い段階で原告データベースが組み込まれたと主張する。
  • データベースの比較によれば、独自情報を含むデータを組み込まれたことが認められる。しかし、比較によれば住所及び診療所には原告データベースから情報が取得されていない医療機関があり、診療時間や診療科目については原告データベースから取得したことを認めるには足りない。
  • 原告データベースから組み込まれた医療機関は一部に留まるため、上記の主張は理由がない。
  • 原告は、原告データベースが後から読み込まれて情報を上書きしたことから被告データベースに組み込んだといえると主張する。
  • しかし、一部が組み込まれたことは認められるが、複数のデータベースから情報を取得し、手作業で追加修正を行ったため、どの程度組み込まれているかは不明といわざるを得ない。
不法行為該当性
  • 原告は、被告が営利目的で、原告データベース上の医療機関情報を収集して組み込んでおり、著しく不公正な手段を用いて他人の法的保護に値する営業活動上の利益を侵害したから、不法行為責任を負うと主張する。
  • しかし、原告は、原告データベースが著作物として保護され、被告の行為が著作権侵害行為に該当する旨は主張していない。また、証拠や弁論の趣旨等によれば、原告データベースは情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有しないから、著作物として保護されない。
  • データベースがその作成、維持のために費用や労力をかけたものとして独立の経済的価値を有する場合であっても、そのデータベースが著作物として保護されない場合には、データを収集して別のデータベースに組み込む行為は、情報及びデータベースの内容及び性質、行為の態様及び目的、権利侵害の程度等に照らして、著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合に限り、不法行為を構成するというべきである。
  • 原告データベースの主要部分は一般に公開されている情報であるが、原告により相当の費用を及び労力をかけて作成、更新されたものであるから、独立の経済的価値を有し、法的保護に値するものである。
結論
  • 以上の通り、原告データベースは独立した経済的価値を有するものではあるが、医療機関情報の主要部分は一般に公開されることが要請され、実際にも公開されている。
  • 被告が原告データベース上の医療機関情報を組み込んだことは認められるが、どの程度組み込んだかは不明であり、組み込んだ可能性のある情報の多くも、他のデータベースの情報と一致する。
  • 被告が行った事業が、原告又は原告の顧客のデータベースを用いた事業にどの程度の影響を及ぼすかは不明である。
  • 被告は、原告及び原告データベースの存在を認識していなかった。
  • 上記の点を考慮すれば、被告の行為を著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価することはできない
  • よって、被告の行為が原告の営業活動上の利益を侵害する不法行為を構成するとはいえない。

考察

本事案では著作物ではない(著作物と主張されていない)データベースについて争われておりましたが、以下のようにして不法行為と判断されました。

  • 無断複製は判断できる限り一部に留まっており、それについてもどこまでかは不明である。
  • 独立の経済的価値を有するデータベースであっても、著作物として保護されない場合には、データを収集して別のデータベースに組み込む行為は、内容及び性質、行為の態様及び目的、権利侵害の程度等に照らして、著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できる場合に限り、不法行為を構成するというべき。
  • 原告データベースは独立の経済的価値を有する。
  • 被告の事業が原告の事業に及ぼした影響は不明であり、被告は原告や原告データベースの存在を認識していなかったため、著しく不公正な方法で他人の権利を侵害したと評価できない。
  • よって、不法行為を構成するとはいえない。

結論だけを見ると、どこかの企業が汗水垂らして作成したデータベースをコピーしてきて自分たちの会社で使っても問題ないのか、と思ってしまうかも知れませんが、それは間違いであることが分かります。上の判断をひっくり返してみてみれば、

  1. 無断複製が明らかである
  2. 企業や企業のデータベースの存在を知っていた
  3. 事業に影響を及ぼす形である

といった条件を満たしていれば、不法行為として認められることが分かります。データベースをコピーされてしまった企業は、まずそのデータベースが著作物かどうかを検討し、著作物でない場合は上記の主張が可能かどうか考えるのが良いでしょう。
冒頭でも触れましたが、東京地裁判決平成13年5月25日(翼システム事件)では、著作物であるという主張は退けられたものの(今回と違って主張は行われた)、上記の点が認められています。

さて、ここまで考えてみると、果たしてデータベースが著作物として認められるにはどうしたらいいのかということが気になってきます。そもそも著作物として認められれば、事業の影響などは考えなくて良くなるわけです。そこで次回の記事では、データベースの著作物性とそれが認められた判例について考えたいと思います。